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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)8874号 判決 1977年11月11日

原告 桜井善吉

右訴訟代理人弁護士 小川景士

同 向山寛夫

同 山崎馨

被告 株式会社 茗昇

右代表者代表取締役 石容徳

被告 石容徳

被告両名訴訟代理人弁護士 秋山昭八

同 刀根国郎

同 曽田淳夫

同訴訟復代理人弁護士 鈴木利治

主文

一  原告に対し、被告株式会社茗昇は、別紙物件目録記載二の建物を収去して、被告石容徳は同建物から退去して、それぞれ同目録記載一の土地の明渡しをせよ。

二  被告両名は、各自、原告に対し被告株式会社茗昇において昭和四七年四月一日以降、被告石容徳において同四八年一〇月五日以降それぞれ右土地明渡済まで一か月金二万七五五二円の割合による金員の支払いをせよ。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

五  この判決は、原告において、被告らのために共同で金五〇〇万円の担保を供したときは、原告勝訴の部分にかぎり、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  原告に対し、被告株式会社茗昇は、別紙物件目録記載二、の建物を収去して、被告石容徳は同建物を退去して、それぞれ同目録記載一、の土地の明渡しをせよ。

(二)  被告両名は、各自、原告に対し、昭和四七年四月一日から右建物収去土地明渡済まで一か月金二万七五五二円の割合による金員の支払いをせよ。

(三)  訴訟費用は、被告らの負担とする。

(四)  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  本件賃貸借

原告は、昭和四四年七月一日、被告株式会社茗昇(以下被告会社という)に対し、原告所有の別紙物件目録記載一の土地(以下、本件土地という)を期間は右同日から一年間、賃料月額二万七五五二円、三か月分前払いの約で貸渡した(以下、本件賃貸借という)。

(二)  被告らによる本件土地の占有

被告会社は、本件土地上に別紙物件目録記載二の建物(以下本件建物という)を所有し、被告会社代表者である被告石容徳は本件建物を事務所および住居として使用して、それぞれ本件土地を占有している。

(三)  本件賃貸借の期間満了

本件賃貸借は、原告被告会社間において、昭和四五年七月一日および同四六年七月一日の二回にわたって更新されたが、結局同四七年六月末日をもって期間満了により終了した。

かりに、これがさらに更新されたとしても、本件賃貸借は、同四八年六月末日あるいは、おそくとも本訴提起後である同四九年六月末日をもって期間満了により終了した。

(四)  賃料不払いによる契約解除

かりに右主張が理由がないとしても、原告は、被告会社が昭和四七年四月以降本件賃貸借の賃料を支払わないため、同年一二月から同四八年八月一〇日までの間に十数回にわたって右支払いの催告をしたうえ、同四八年一〇月五日被告会社到達の書面をもって本件賃貸借を解除する旨の意思表示をした。

(五)  用方違反による契約解除

さらにまた、被告会社は昭和四四年有限会社中外企業(以下、中外企業という)から本件建物を代物弁済によって取得したのであるが、これが約定による仮設建物の範囲を超えた軽量鉄骨造の堅固建物であるため、原告は本件賃貸借成立後である昭和四四年一〇月から同四六年三月までの間被告会社に対して再三にわたって用方違反を理由に本件建物の収去を申し入れたが被告会社はこれに応じなかった。そこで、原告は昭和四八年一〇月五日被告会社到達の書面をもって、右用方違反を理由に本件賃貸借を解除する旨の意思表示をした。

(六)  背信行為による契約解除

以上の主張が理由がないとしても、本件建物は、原告が昭和四一年一一月ころ中外企業に対して本件土地を一時使用の目的で賃貸したところ、同社において原告に無断で建築したものであり、さらに同社の事実上の支配者である石原正雄はこれについて、本件土地を建物建築敷地として使用することを承諾する旨の原告名義の承諾書まで偽造している。しかも、右石原正雄は、被告会社の事実上の支配者たる地位をも兼ねているのであって、被告会社は本件建物を取得した後、一時使用目的になじまない本件建物が存在する事実を利用して本件賃貸借を一時使用目的とすることを疑わしめるような契約にしようと画策したほか、前記第三、第四項記載のとおり、原告からの延滞賃料支払いおよび本件建物収去の催告をいずれも無視して来たのであって、右一連の行為は著しい背信行為というべきである。

そこで、原告は昭和四八年一〇月五日被告会社到達の書面をもって右背信行為を理由に本件賃貸借を解除する旨の意思表示をした。

(七)  結論

よって、原告は、被告会社に対し本件建物収去土地明渡し、被告石容徳に対し本件建物退去土地明渡しをそれぞれ求めるとともに、被告ら各自に対し、昭和四七年四月一日から本件土地明渡しずみまで月額金二万七五五二円の割合による不払賃料および賃料相当損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

(一)  請求原因第一、第二項の事実は認める。

(二)  同第三項中、本件賃貸借の期間が昭和四五年、同四六年の二回にわたって延長されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)  同第四項中、原告主張の書面が到達したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(四)  同第五項中、被告会社による本件建物取得の経緯および原告主張の書面が到達したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(五)  同第六項中、中外企業による本件土地の賃借および本件建物建築の事実および原告主張の書面が到達したことは認めるが、その余の事実は否認する。

三  抗弁

(一)  本件賃貸借の目的

本件賃貸借は、普通建物所有を目的とするものである。従って、本件賃貸借に定める一年の期間は借地法二条に反して無効であり、右期間を定めなかったものとみなされる結果、同条の適用を受け、その期間は三〇年というべきである。

(二)  賃料の支払

被告会社は原告に対し昭和四七年一〇月までの賃料は支払済であるうえ、同年一一月以降の賃料については、その受領を拒絶されたため、供託中である。

(三)  本件建物建築についての原告の同意

原告は、昭和四二年二月ころ、中外企業に対して本件建物の建築を承諾している。

四  抗弁に対する答弁

(一)  抗弁第一項の事実は否認する。

(二)  同第二項中、賃料供託の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

(三)  同第三項の事実は否認する。

五  再抗弁

(一)  一時使用

かりに、本件賃貸借が建物所有目的であったとしても、右は、本件土地を臨時設備(貨物自動車およびドラム缶置場ならびに仮設物置および同自動車車庫設置)用地としてのみに使用する一時使用のための賃貸借として締結されたものである。

六  再抗弁に対する答弁

再抗弁事実を否認する。

第三証拠関係《省略》

理由

一  本件賃貸借の成立および本件建物の所有・占有関係請求原因第一、第二項の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件賃貸借の目的、期間

《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  原告は、昭和四一年一一月一日から石原正雄に対して当時更地であった本件土地を賃貸することを約し、同年一一月二二日、石原が事実上の経営者となっている中外企業を賃借人として、土地使用目的を貨物自動車・ドラム缶置場、仮設物置、自動車車庫の設置、期間を同年一一月一日から一年間とする一時使用土地賃貸借契約公正証書を取交した。しかしながら、右契約に伴う権利金、敷金等の授受はなかった。

(二)  中外企業は、昭和四二年五月ころまでに本件土地上に本件建物を新築して同月一三日その保存登記を経由したが、原告は、その頃、右事実を知った。

(三)  中外企業は、昭和四四年七月九日やはり石原正雄が事実上の経営者である被告会社に対して本件建物を代物弁済によって譲渡したとしてその旨の所有権移転登記を経由した(右譲渡の事実は当事者間に争いがない。)。

(四)  そこで原告は、昭和四四年七月一日以降被告会社に本件土地を期間一年の約で賃貸することとして本件賃貸借を締結し、同年七月二一日、被告会社との間で、本件土地の使用目的を前記中外企業における同様とする趣旨の一時使用土地賃貸借契約公正証書を取交し、昭和四五年、同四六年の二回にわたって同趣旨の公正証書を取交して期間を延長した。なお、本件賃貸借の成立に関しても権利金・敷金等の授受はない。

以上の事実が認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、当初、中外企業が本件建物を新築するについて原告の承諾があったか否かの点はとも角として、原告としては、本件土地上に被告会社所有の本件建物が存在することを知りながら被告会社との間で、右現状と矛盾する期間を一年間とする一時使用目的の賃貸借契約書を取交し、さらにこれを二度にわたって更新していることが明らかであって(原告本人は、石原ないし被告会社に対して再三にわたって本件建物の収去を求めたと述べるが、右更新の事実に照して措信しない)、原告の右態度に照すならば、原告と被告会社間に取交された甲第一号証の一ないし三の契約書の使用目的についての記載にもかかわらず、本件賃貸借は建物所有を目的とするものであったと認めるのが相当である。

なお、原告は、本件賃貸借が一時使用目的であると主張するが、軽量鉄骨造りの本件建物が事務所および住居として使用されていることは当事者間に争いがなく、原告において本件建物がそのような用途に供されていることを知りながら本件賃貸借を締結している以上、たとえ原告・被告会社間の契約書に一時使用目的の記載があり、あるいは本件賃貸借の成立に際して権利金・敷金の授受がなかったことを考慮しても、なお、これをもって本件賃貸借を借地法九条にいう一時使用目的の賃貸借とは到底断じ難いし、他に本件賃貸借をもって一時使用目的に限定された賃貸借と認めるに足りる客観的、合理的事情について何らの主張立証はなく、結局、原告の右主張は理由がないといわなければならない。

従って、本件賃貸借は、普通建物所有を目的とした賃貸借と解するほかなく、約定の一年の存続期間は借地法二条に反して借地人に不利な契約条件としてこれを定めないものとみなされる結果、同条によって右期間は三〇年になるものといわなければならない。

よって、本件賃貸借成立後、三年ないし五年の経過をもって本件賃貸借が期間満了によって終了したとする原告の主張は理由がないというべきである。

三  賃料不払による本件賃貸借の解除

原告が昭和四八年一〇月五日被告会社到達の書面をもって賃料不払いを理由として本件賃貸借解除の意思表示をしたこと、被告会社が原告に対し昭和四七年一一月以降の賃料を供託していることは当事者間に争いがない。

そこで、まず賃料の支払状況および催告の点について検討するに、《証拠省略》によれば、被告会社は、本件賃貸借成立直後の数回は約定賃料三か月分を原告方に持参して支払っていたが、次第にこれを持参しなくなったため、原告が電話で、あるいは直接出向いて支払いを催促し、これを受領して来たが、現実には催促にもかかわらず支払いを受けられないことが多かったうえ、賃料三か月分金八万二六五六円として受領した小切手が不渡りになることもあってその支払いは遅れがちとなっていたこと、原告は昭和四七年一〇月二六日ころ、賃料三か月分の小切手を受領して以来、同年一一月以降翌四八年八月ころまでの間十数回にわたって電話によって、あるいは直接被告代表者方に出向くなどして延滞賃料の支払いを催告したがその間全くその支払いを受けられなかったこと、当時、原告は被告会社から昭和四七年一〇月分までの賃料を受領済であると錯覚していたが、その後、現実には同年四月分までの賃料を受領しているに過ぎないと気付くに至ったことなどの事実が認められる。

これに対して、被告会社は、賃料は昭和四七年一〇月分までを原告に対して支払済であると主張するが、右主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。また証人石原正雄は、賃料は原告による取立払いの約束であり、昭和四七年一一月ころ原告から賃料増額の申入れがあり、その協議の機会を持つことなく、また賃料支払いの催促も受けることなく期間が経過したに過ぎないと述べるが、右供述は《証拠省略》に照して到底信用できず、他に前認定を動かすに足りる証拠はない。

次に、前記賃料供託について、証人石原正雄は、昭和四八年九月ころ、原告の妻から賃料支払いの催促があったため、それまでの間の賃料を準備のうえ原告に対してその受領を求めたところ、これを拒絶されてこれを供託したと述べるが、右供述は原告本人の供述に照して措信できず、他に弁済の提供があったと認めるに足りる証拠はないから、右供託は弁済供託としての要件を欠き、その効力を有しないのみならず、《証拠省略》によれば、右供託は原告から被告会社に対する本件賃貸借解除の意思表示到達の一〇日後である昭和四八年一〇月一五日にはじめてなされたものであることが認められる。

従って、本件賃貸借は、昭和四八年一〇月五日をもって同四七年四月一日以降の賃料不払いを理由として有効に解除されたものというほかなく、以後、被告会社のみならず、その代表者である被告石容徳においても正当な権限なくして本件建物を所有ないし占有することによって本件土地を占拠しているものというべきであるが、被告石容徳の右解除の日より前の本件土地占有は、被告会社の占有権限に基づくものであり、これをもって不法占有とはなし難いといわなければならない。

四  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、本件賃貸借の解除を理由として、被告会社に対して本件建物収去本件土地明渡しおよび昭和四七年四月一日以降右明渡済みまで月額二万七五五二円の割合による賃料および右相当損害金の支払いを、被告石容徳に対して本件建物退去本件土地明渡しおよび右解除の日である昭和四八年一〇月五日以降右明渡済みまで、右同額の賃料相当損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鷺岡康雄)

<以下省略>

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